9/16・24 サロード演奏会によせて① インド音楽との出会い by 木村 吉寛

9/16(金)と24(土)の夜、nidaでは、インド古典音楽の演奏会を開きます。

演奏してくださるのは、若きサロード奏者 ディプトニル。

サロードといえばこの人!!という巨匠アリ・アクバル・カーンに

最年少5歳で弟子入りしたという逸材です!

 
今回彼の来日を全面的にサポートし、

彼の前座としてシタールを演奏してくださるのが

ディプトニルの父を師として学び続ける、木村 吉寛さん。

 
真摯にインド古典音楽と向き合い、師に仕え、シタールを弾き続ける木村さんが、

ディプトニルの講演会によせて、ご自分とインド古典音楽とのかかわりや

ディプトニルのことなどについて、文章を寄せてくださいました。

 
彼の誠実な人柄やインド古典音楽やその師弟制の奥深さがうかがえて、

演奏を聴くのがますます楽しみになりました〜!

ぜひお読みください!

 
*プロモーションビデオは→こちら

 
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「インド音楽との出会い」

 
私がインド音楽に出会ったのは、高校2年生の時でした。

当時通っていたヨガ教室の知人の紹介でチャンドラカント博士のシタールを使った音楽療法のセッションに参加したのがきっかけでした。

当時の私は、自分の体調に何か良くわからない違和感を感じていました。

西洋医学の医者に診てもらっても特に異常は見つかりませんでした。

 
今振り返ってみると、それは将来の進路に対する漠然とした不安が原因だったのかもしれません。

当時は、それがわからなかったので、ヨガやアーユルベーダ(インドの伝承医学)等の民間療法に興味を持ち、そこから答えを得ようとしていました。

 
そんな時に、シタールによる音楽療法を紹介され、とにかく面白そうだから、試してみることにしたのです。

音楽療法では、参加者は仰向けで目を閉じた楽な姿勢で横たわり、ひたすらシタールの音色に身を委ねます。

マイクを通さない楽器の生の音が、体全体にビシビシと伝わってくるのを感じました。

 
シタールの音を聞いていると、色々な想念や感情が浮かんでは消えていき

セッションが終わると、自分のもやもやした思考が整理されて、すっきりした気持ちになっていることに気付きました。

この音楽療法が私に合っていたのかもしれません。

セッションが終わり、チャンドラカント博士との質疑応答が始まりました。

 
すると、まるで私の心を見透かしたように

君には音楽療法が必要だ。

学生でお金もないだろうから、無料で音楽療法を行ってあげよう。

お金は将来働くようになった時に返してくれたらいい、

 
と言うのです。

 
この心地良い体験に興味を持った私は、暫く通ってみることにしました。

 
徐々にわかったのは、この音楽療法は、

チャンドラカント博士がアーユルベーダ医師の父から受け継いだ医学的な知恵と、

サーマベーダと呼ばれる音の科学に関する知識を基に独自に考案したものだということです。

 
セッション後は、個人的な悩み事や相談などにも応じてもらいました。

音楽療法のおかげで調子が良くなった私はとりあえず大学に進学することにしました。

音楽療法からは遠ざかっていきました。

 
しかし、何の目的もなくとりあえず進学した大学では、楽しみを見出だせませんでした。

そこで、大学から少し距離を置いて、飲食店で調理のアルバイトを始めました。

 
仕事は大変でしたが、汗を流して働くことに、得も言われぬ充実感や喜びを感じました。

お客さんに、自分の調理した料理を食べてもらうことに、やりがいも感じました。

 
また、職場では料理好きのシェフ、ミュージシャンや絵描きなど、自分の好きなことを大事にしながら働く魅力的な人々にも出会いました。

 
そこで、ふと思ったのです。

 
自分も自分の好きなこと、やりたいことで他人に影響を与えられるようなことを目指した方が良いのではないかと。

 
そんな時に真っ先に思い浮かんだのが、チャンドラカント博士のシタールの音色でした。

そして、何年かぶりに、その音を聴きに博士のライブに行くことにしました。

 
ライブでは、音楽療法の時とは違って、タブラと呼ばれるインドの太鼓奏者との掛け合いなどもあり、

演奏も激しくて、色々な感情がまた胸に沸き上がってきました。

 
実際に会場に足を運んでしか得られないその場の緊張感や雰囲気などは、独特なものがあります。

 
いま、その場で紡ぎ出されるインド音楽の本来の魅力は、やはりライブでしか得られないものではないでしょうか。

 
博士の演奏する姿を見て、

自分も音楽を通して様々な感情を人に感じてもらえらるようになりたいと思いました。

 
そして、チャンドラカント博士から、シタールでインド音楽を学ぶことにしました。

意を決して、そのことを伝えると、私の移り気な性格を察して、こう言われました。

 
二度とやめないのであれば、教えてあげても良い。

 
そうして、私はシタールを習い始めることになりました。

 
*このチャンドラカント博士、巨匠ラヴィ・シャンカールの愛弟子だったそうです!